江戸時代、歌舞伎と浮世絵は、その誕生の頃から密接なつながり

を持って、共に発展してきた。歌舞伎は今なお多くの役者が活躍し、

ファンの熱い支持を得ているが、役者の姿を写すものは浮世絵では

なくなってしまった。

 昭和53年(1978)、歌舞伎座において現代の役者絵が弦屋光溪に

よって発表された。我々はその作品に当代の役者たちの姿を見、江

戸の人々が贔屓の役者を浮世絵に見て楽しんでいたと同じ喜びを味

わうことが出来た。

 似顔を描くだけでなく、役者の芸質までも写し出そうとした光溪の役

者絵は、写楽の登場時と同じく、大きな反響を呼んだ。様式美にとら

われないで、人間味を追求する姿勢を貫く光溪は「現代の写楽」と評

される。光溪自身、写楽を強く意識していることは、作品を見れば明

かであろう。写楽が蝋燭の灯りの中に浮かぶ役者の相貌を捉えたと

すれば、光溪の作品には現代の照明に照らし出された明るさがあ

る。明るいやわらかな色彩は、光溪独特のものである。

 弦屋光溪は現在、国内外で高い評価を受ける版画家となった。本

作品集は役者絵に拘った22年の活動の全てを紹介する。独学で習

得した本版画が、役者絵シリーズを経て、今後どのような作風を展開

するか、次なる飛躍を期待させる。

 本作品集の発行は、弦屋光溪の才能を支援してきた永山武臣松竹

会長をはじめ、関係各位の尽力によるものである。感謝の意を表し

たい。

2000年11月

財団法人 平本浮世絵財団

平 木 浮 世 絵 美 術 館

館 長  佐 藤 光 信